【RAUのブランドストーリー vol.1】世界のトップパティシエが集結するWCMに審査委員長団として選出されたシェフが感じたこと、創り上げた「Asu」。
目次
食べられる芸術(Edible Art=エディブルアート)として数々のスイーツを生み出すスイーツブランド「RAU」。
コスタリカのカカオ豆からビーントゥーバーで作り上げたNami-Namiや、ボンボンショコラiroなどの人気商品でGOOD NATURE STATION ONLINEでもお馴染みです。
今回、読者の皆さんにRAUというブランドと、RAUを創り出したシェフおふたりの魅力を新たに知っていただくために、連載コラムをはじめました。
数回に分けてご紹介する今回の企画では、実際にシェフパティシエである松下裕介氏・シェフショコラティエールである高木幸世氏にインタビューしました。
RAUというブランドの魅力を紐解くうえで、ワールドチョコレートマスターズ(WCM)で得た経験や、上質なカカオ豆を見つけるために訪れたコスタリカでのお話、シェフが考える仕事を理想のカタチにする秘訣など、もりだくさんの内容でご紹介したいと思います。
ぜひ、最後までお付き合いください。
ワールドチョコレートマスターズ’22(WCM)に審査委員長団として選出された経緯。大会で感じたこと。
世界のガストロノミー、パティスリー、ショコラトリーのプロフェッショナルが技術を競うチョコレートのワールドカップとも呼ばれる「ワールドチョコレートマスターズ’22(WCM)」。
創造性に富んだ製品の使用法や、意外な食品の組み合わせ、食感や風味を工夫するなどして革新的なチョコレートを提案するクリエイティビティ溢れるこの大会に、2022年秋、アーティスティックスキル部門の審査委員長として選出された松下シェフと高木シェフ。
この部門は、18人のファイナリストの芸術的スキルを評価する際に、審査員全員が公正な判断を下すことを見守る役割です。
シェフおふたりに大会に実際に出られて感じたことや、大会を通じて作り上げたデセール「Asu」の完成までの裏話について聞いてみました。
ー審査委員長に選出された経緯は何だったのでしょうか?
松下シェフ:チョコレートとココア製品を製造する世界有数のメーカーであるバリーカレボー・グループという会社があるのですが、東京支社の社長がRAUに何度か足を運んで来られたそうなんです。
日本全国にある数々のスイーツブランド店を回られていた中で、RAUの店舗で商品を何点か召し上がられて。そこで、「このお店を世界に紹介した方がいい」ということになり、オファーが来ました。
オファーをくださった方に、僕たちは結局最後までお会いできていないのですが…。
ーRAUのお菓子がいかに素晴らしいか物語っているエピソードですね…!WCMの大会は、審査委員長として参加されて改めていかがでしたか?
髙木シェフ:今思い返しても凄く大変な経験でしたね…!
世界各国から審査委員と選手たちがそれぞれ約20名参加されていたのですが、文化の壁を強く感じました。国によって大会へ参加するスタンスや、姿勢も異なっていたので。
審査委員の中の1人だったら、いろんな人が居る中で参加できて「良い経験になったな」で終わっていたかもしれないと思うんですけど、大勢の方たちを審査委員長としてまとめていく立場でしたので。
松下シェフ:もちろん海外だけでなく日本人選手も参加していたのですが、彼らは「絶対に優勝するぞ!」という志を掲げていました。優勝以外、ありえないというモチベーションで参加されていましたね。
ーなんだかオリンピックの大会の雰囲気に、似ているような印象ですね。
ー高木シェフはアジア人の女性として初めて選出されましたが、女性という視点でこの大会はいかがでしたか?
髙木シェフ:各国から審査委員として選ばれる方たちは高い技術だけでなく、リーダーシップのある方が参加されていたので、皆さんおだやかで優しく、女性・男性という垣根はなく、フェアな雰囲気でしたね。
実際に大会にもサステナブルジュディというサステナブル審査委員が3~4名居るのですが、全員女性なんです。彼女たちはこの大会自体がサステナブルな規約に則っているのか女性としての目線で評価し、意見を言う役割を担っていました。
運営や取り仕切っている方、ディレクションをしている方も女性が多かったです。
「TOMORROW(明日)」というテーマも、技術だけではない部分がテーマになっていて、深くて意義のある大会でしたね。
ー「明日」というテーマに対し、大会に出ている作品はどのように審査されていたのでしょうか?
松下シェフ:アーティスティックスキル部門の審査委員長だったので、作品を通して、なぜこの色、デザイン、文字にしたのか。色としてどういう風に綺麗にまとめられているのか?などを審査しましたね。
単純に「TOMORROW(明日)」という文字を作品に載せたり、「明日」というのが明るいイメージを感じたので虹色にしたりというのでは、作品としてもクオリティが低くなってしまいます。
「何故この作品を作ったのか」という強い意志があれば、ちゃんと伝わってきましたし、作品のクオリティも高いです。
大会テーマの“TOMORROW(明日)”を「RAU」唯一無二の世界観で創作したデセール※「Asu」の制作秘話
※デセールとは:フランス語でデザートのこと。RAUでは持ち帰れるアシェットデセールをコンセプトにして、自然界のあらゆるものを器に見立ててデザートを構成しています。※こちらの商品はGOOD NATURE STATION3階「RAU Patisserie 」にてご賞味いただけます。
業界の今後について、大会を通して感じた“多様性”というキーワードから考えを膨らませて“歯車”というイメージにたどり着いたデセール「Asu」。“歯車”は、チョコレート業界をはじめとした世界の産業をかたどっており、1つだと回らない歯車が、その他の歯車と噛み合う事によって動き出す様子を表現。下は、パンデミックの影響で止まってしまった錆びた歯車、上は錆が取れた新しい歯車を表しています。
今後のチョコレート業界をイメージしたカカオバター入りのフランボワーズのソースは、様々な産業に影響を与える潤滑油のような存在であることを意味しています。
ー大会に選出されてからどのような経緯でデセール「Asu」は生み出されたのでしょうか?
髙木シェフ:審査委員長として選ばれて、そこから“TOMORROW(明日)”というテーマが発表されたんですが、その大会が始まるまでの間、選手の方はそのテーマに向き合って準備を進めているわけで。審査委員長としてもそのテーマに真剣に向き合おうと思いました。
“TOMORROW(明日)”という壮大なテーマに、チョコレート業界の進化を感じたのですが、自分なりにチョコレート業界の“明日”を考えた答えが“歯車”だったんです。構想としては大会前から出ていました。
大会に実際に参加してみたときに、自分は選手でもないし、歯車本体は自分ではないなと思ったんです。
大会を終えてから、自分たちは潤滑剤であるグリースの部分であるなと答えが出ました。
制作と構想期間は半年以上かかりました。バレンタインデーや、普段の仕事もある中で並行して試作をしていたのですが、歯車という表現をどうするかという事に時間がかかりました。
松下シェフ:僕は途中で、歯車やめたら?って言ったんですけど(笑)
商品として販売するかぎり、可愛さだったり、かっこよさだったり、おいしそうだったり、そういう要素が必要なわけでして。歯車は無機質で無骨なものじゃないですか。
それをお菓子として成り立たせるのが難しいことなんですけど。でも、最近はそういうところにこそ「価値」があるのではないかと考えています。
無骨なものを単純にコピーするのではなく、歯車をいかに我々的に表現できるか。
そしてそれがいかに美味しく、ストーリー性があるものにするのか、考えをめぐらしましたね。
ー「Asu」のデザインをぱっと見てみると、お花のようなデザインにも見えてきました。試作品もたくさん作られたのでしょうか?
松下シェフ:お花の要素も取り入れています。「明日」は明るくあってほしいので。食べた人が希望を持てるじゃないですけど、お花って明日は明るく咲くのかなと。
試作については、はじめは実際に歯車をつくってみて、6~7個くらい試作しました。
僕はあきらめが早いんですけど(笑)。違う選択肢があるんじゃないかって考えるタイプなので。
髙木シェフ:歯車を曲げたくないって私が言って、時間がかかりました。
喧嘩のたまものですね(笑)
おわりに
WCMの審査委員長を務め、その経験をただ経験として終わらせるのではなく、大会のテーマである“TOMORROW(明日)”を「Asu」というデセールへと完成させたシェフおふたり。止まることのないその向上心と菓子作りの探求心に、編集部も脱帽でした。
次回のコラムでは、RAUのビーントゥバーで使われるカカオ豆の産地コスタリカについて、シェフおふたりが現地の農園で訪れた出来事や、カカオ豆の実態について迫りたいと思います。